『キュレーションの時代 「つながり」の情報革命が始まる』/佐々木 俊尚 (著)

キュレーションの時代 「つながり」の情報革命が始まる (ちくま新書)

キュレーションの時代 「つながり」の情報革命が始まる (ちくま新書)


ここ数年、自分の頭の中でモヤモヤと考えていたことに対して、ひとつの明解なストーリーを与えてくれた書籍に巡り合うことができました。著者の佐々木俊尚さんは、「電子書籍の衝撃」などのベストセラーをお持ちで、現在のインターネットメディアでは大変大きな影響力を持つ、本書で言うキューレターの一人です。


『コンテンツが王の時代は終わった。』という刺激的なフレーズが飛んでいますが、正しくは『コンテンツだけが王の時代は終わった。』というべきでしょう。『一時情報を発信することよりも、その情報が持つ意味、その情報が持つ可能性、その情報が持つ「あなただけにとっての価値」そういうコンテキストを付与できる存在のほうが重要性を増してきている。』と佐々木さんは言います。
実際には太古の昔からこのキューレーションは存在しており、それがなければあらゆる生活様式の発生や、流行、ブームは起こらなかったはずです。ただ過去においては、キューレーションの能力を持ったごくわずかな人が、特別な情報を入手できる特権的な立場にいて、諸々を取り仕切っていた時代が長く続いたと考えることができます。
意図的かどうかはさておき、コンテンツとキューレーションが不可分で一体となっていた特殊な時期にマスコミ業界が隆盛を誇ったと言えるかも知れません。


現在は、ITの進歩によってインターネットを中心としたメディア環境が整ったことで、市井の人でも相応の能力とセンスと好奇心さえあればキューレターとなり得る時代になりました。著者佐々木さんの主張はここにあるのだと感じます。
ただし、可能性がでてきたということと、誰でもできるということはまったく違います。真の意味でキューレーションなど誰でもできるほど生易しいものではありません。表現力に加えて相当幅広い知識とスキルがないと、誰の共感も得られず、自分勝手な自我の垂れ流しになってしまうのが落ちでしょう。


もうひとつ本書で鮮明に記憶にのこったのは、ひとりの人間の価値観、世界観を表す中心軸が多数ある『多心円』という考え方です。ひとりの人間が持つ世界観は、多様であり単純な同心円で表わすことには無理があります。しかしかつてのマーケティングや広告のモデルとしてきた人間像は比較的単純な『同心円』に近いものだったと思われます。
同一人物であっても生活シーンや役割ごとに内面の精神世界が異なり、関心事やその先のつながりは様々です。この様々な複数の関心事をひとつの円として『多心円』と表現されているのはとても興味深く感じています。


ばらばらに存在していた個人の『多心円』と別人の『多心円』が結びつくきかっけこそが、素晴らしいキューレーションです。そのためのインフラとして、twitterfacebookをはじめとするソーシャルネットワークサービスであり、テキスト発信のブログや動画のYoutubeUstreamなど、安価なインターネットを使った情報発信の技術がソーシャルの生態系を支えているのだと気づきました。


インターネットによる情報発信やコンテンツ制作に関わっている自分自身の職業柄、立ち止まっていろいろと考える点があった力作だと感じています。
広告やマスコミ関係の方はすでに注目されていると思われますが、いわゆる業界ではなく、一般企業の現場リーダーの方にこそお勧めしたいと思います。広告や広報の意味がまったく変わってしまうことの意味合いやその胎動が本書では詳しく記されているからです。



■キューレーション【curation】
無数の情報の海の中から、自分の価値観や世界観に基づいて情報を拾い上げ、そこに新たな意味を与え、そして多くの人と共有すること。